機械仕掛けのラブレター
生まれて初めて恋をした。
大学のすぐ近くにある花屋で働く娘だ。
彼女に気持ちを伝えたいと考えたが、昔から研究一筋の私はなにもできず、日々ラボに花が増えていくばかりである。
思い悩んだ末、ひとつの解決策を思いついた。
私が研究生命を注いできたのは、言語を操るAIの開発なのだ。
人間社会は、言葉の悩みに満ちている。
論文を書くのが面倒だとか、メールの文面であらぬ誤解を生んでしまったとか、そういった問題を解消するために、私はすでにいくつかの言語AIを完成させている。
私は数台のAIに彼女への想いを読み取らせ、ラブレターを代筆させることにした。
頭に電極をセットし、彼女の笑顔をめいっぱい思い浮かべると、さっそくAIたちがラブレターを書き上げた。
彼女に贈るにふさわしい出来か、一つずつ検証しよう。
①論文執筆AI
効率良く論文を書くために大量の論文を学習したAIのラブレターはどうだろう。
こういうことではないのではないだろうか。
恋愛のことはよくわからないが、参考文献がいくらあっても彼女は喜ばない気がする。
残念だがこれはボツである。
②リリック製作AI
B-BOYの依頼によってプログラムした、RAPを自動で作るAIのラブレターはどうだろう。
好意を寄せている女性に「Fuck you bitch」とか言ってはいけないのではないだろうか?
いや、どんな女性でもダメである。そんなこと言うからバッドボーイと言われるのだ。
また、韻を踏むために血尿を出すのもいかがなものか。
こちらもボツと言わざるを得ない。
③中学生用AI
全国の中学生の脳をスキャンしたAIによるラブレターはどうだろう。
なぜ中学生は縦読みが大好きなのか?
それは研究に十分値するテーマと言えるだろう。
また、「すきやねん」となぜか関西弁にしてしまったために最後「ンジャメナ共和国」しか言えなくなっている点も興味深い。
なんだか昔の恥ずかしい記憶を思い出しそうになるのでこれもボツ。
④まとめサイト用AI
怪しげな情報商材を売る男の依頼でプログラムしたAIのラブレターはどうだろう。
ふざけるな。検索したら一番上に出てくるくせに結局なにもわからないやつじゃないか。
あと魂の重さで痩せようとするな。
ボツだ、ボツ!
なんということだ!
AIによるラブレターはどれも彼女の気を引けそうになかった。
...しかし、科学はトライアンドエラーだ。
押してダメなら押すしかないのである。
私は諦めない。
必ずや、彼女に想いを伝えられるAIを開発してみせるのだ!!
うおおお!!!
そう意気込んでラボに篭った若き天才科学者を見て助手は思った。
手書きでいいのに、と。
おわり