「かわいい」とはなにか?
「かわいい」は謎だ。
「美人」という意味で使われるときもあれば、赤ちゃんや動物も「かわいい」し、パンケーキとかパフェも「かわいい」し、あげくのはてには「キモかわ」「ブサかわ」みたいな矛盾した言葉もあるくらいで、もうなんでもありじゃん、という気分になる。
されどこの言葉はすごい力を持っていて、ひとたび「かわいい」と話題になったものは流行の中心にやってきて、とてつもない経済をまわしたりする。
たとえば「ゆるキャラ」は、ひと昔前までただの地域の手作りキャラクターだったのに、今では市役所が税金を出して支援する一大プロジェクトになっている。
「かわいい」の原理を解き明かせば、ネクストヒットを飛ばせるのではないか??
ということで、かわいいものをなぜ我々が「かわいい」と感じるのか考えていこうと思います。
手はじめに、無限にある「かわいいもの」を分類して、その特徴を分析していく。
可愛いもの①
枕草子に「ちいさきものはみなうつくし(愛しい)」とあるように、「小さいものはかわいい」という原則は日本に昔からあるようだ。
「キャラクター」と言うより「キャラ」と縮めたほうが愛着がわく気がするわけもこの原則かも。
可愛いもの②
たまごっちがもし八頭身だったら、全然可愛くない。2~3頭身くらいのキャラの可愛さというのは、幼さが起源だろう。
また、海外にくらべて日本のアイドル文化のほうが「子どもらしさ」が強みになる傾向があるように見える。
可愛いもの③
「キモかわ」「ブサかわ」といった一見矛盾したカテゴリーに入るコンテンツは、毎年発見されている。芸人さんの中にも、こういった価値観を味方にヒットする方がいますね。
以上から、1つの事実がわかった。
「かわいい」は「完全な美」とは違う。
「美しい」つまり「ビューティフル」の語源はフランス語の「ボン」(セボン、おいしいとかの)であり、「良い」という意味だけども、「かわいい」はむしろ、良くない要素を含んでいることが必須なようだ。
若干失礼な後輩がかわいがられたり、ぶりっ子だとかあざといと言われながらも小悪魔的女子がモテ続けたりするのがいい例だと言えるだろう。
逆に、↓のようなものは「かわいくない」と考えられる。
・強くてエラい権力者
・巨大で完璧な四角形のビル
・非の打ちどころのないマネキンのような美男美女
・神や仏
こういうかわいいではないものを、まとめて「大いなるもの」と呼ぶことにした。
「かわいい」は、権力や完全さといった「大いなるもの」の周りにあると言うことができるだろう。
しかし、不完全や悪いものならかわいいのかというと、そうではないハズだ。
ゴキブリは気持ち悪いし、殺人鬼は悪。
ではどうやって欠点は愛されポイントに変わるのだろう??
たとえば「ゴスロリ」というものがある。ゴシックロリータというファッションは「原宿Kawaii文化」と呼ばれる文化のなかにあるが、その起源はヨーロッパの「パンクファッション」だという。
ヨーロッパの当時の政治に反発する若者たちのカウンターカルチャーとして生まれたパンクファッションは、日本に上陸してから、ビジュアル系バンドのファンの女性たちによって「ゴスロリ」へと魔改造された。
ここで注目したいのは、パンクファッションの「攻撃的な印象」だけ強調して、「攻撃性」はなくしている点だ。
どういうことかというと、黒が多いとか、鋲が打ってあるとか、そういう「怖い」デザインイメージは保ったまま、「イギリスの政治糞食らえ!」というホントの攻撃的メッセージは消しているということ。(日本の女子にイギリスの政治は関係ないから)
ここで、本来パンクファッションが持っていた「毒っ気」が解毒されて、「飾り」になった。
このとき、「かわいい」が生まれたと言えるだろう。
考えると、こういう作用は、いろんな「かわいい」現象にみられる。
・『北斗の拳』の強くて怖い登場人物を、二頭身のちーこいキャラにすることで解毒
・血や内臓といった死のイメージを、生死を持たないぬいぐるみのキャラとあわせることで解毒
・性のイメージを、性をもたない海藻とあわせることで解毒(まりもっこり)
ようは、「かわいい」流行レースは、「どうやって毒っ気を別の見せ方で表現するか」という大喜利バトルなのだ。
まとめなおす。
「かわいい」のルールは二つ。
・「大いなるもの」の周縁にあるものを愛でる
・「毒」を解毒する
この二つのルールが揃うと、新しい「Kawaii文化」がどんどん作られていくシステムができあがるのがわかる。
こうです。
自分が好きだった地下アイドルが、人気になったらなんとなく愛着が薄れた...みたいなことのように、「かわいい」は、「かわいい」としてヒットした瞬間に「権威」になるせいで、本質的に「かわいくなくなっていく」のです。
つまり、「かわいい」はカウンターカルチャー(前の世代のメインカルチャーを否定することで新しく生まれる文化のこと)なのだ。
ネクストヒットかわいい文化は、おそらく近くにある。なにか引っかかるものを見つけたら、「その短所はどうすれば愛らしいものに見せられるか?」を考えてみよう。
おわり
参考
・四方田犬彦『「かわいい」論』
・犬山秋彦,杉元政光『ゆるキャラ論』
・みうらじゅん『ない仕事の作り方』
【コント】創世記企画会議
神話によると、神はこの地球を6日間で創造され、7日目に休息をとったという。
しかしその壮大な神業の詳細が語られることは少ない。
今日は神の御業と世界の創生について、その成り行きを見ていこうではないか。
創世記は、絶対神ゼウスの「なんかおもしろい企画やろう」という御言葉ではじまった。
ゼウスは、アフロディーテやポセイドン、シヴァにアマテラスを呼んで、世界の開発会議を開いた。
1日目、神々は手分けして海や空や大地を創り、「地球」と名付けた。
2日目、ゼウスは神々を地球のまわりに座らせ、こう説明した。
「これからワシらは“生き物”を創っていく。この地球を生き物の楽園にするために、みんなにはどしどしアイデアを出してもらいたい」
ゼウスは「企画書」と書かれた紙に大きくマルを描くと、それをくしゃっと丸めて地球に投げ入れた。企画書はたちまち細胞へと変化し、最初の微生物が生まれた。
神々は興奮して、アイデアを出しあった。
その日のうちに、地球の海は大量のバクテリアやプランクトンでいっぱいになった。
3日目、夢中で会議を続けた神々のアイデアには磨きがかかっていた。
「水のなかを自由に動く生き物などよいのでは」とポセイドンは原初の【魚】を企画した。
「美しい緑色の生き物なんて素敵じゃない?」とアフロディーテは【植物】を企画した。
「足が生えたり羽が生えたりしてほしいのう」シヴァは【虫】を企画し、
「日本の大地を踏みしめさせてあげたいです」アマテラスは【両生類】を企画した。
地球の姿は見違えた。ゼウスは早くも生き物の楽園が完成したことに満足し、神々は連日の会議の疲れからぐっすり眠った。
4日目、「なによこれ!」とアフロディーテがヒステリーを起こした。昨日あんなに創ったはずの生き物たちが姿を消したのだ。
のちに「デボン紀の大量絶滅」と呼ばれるその夜の出来事は神々にショックを与えた。シヴァはショックのあまり、全身の色が青になった。
しかし神々はあきらめなかった。
試行錯誤のうえ、【恐竜】という一大企画を打ち立てたのだ。
神々の企画は大ヒットし、恐竜は地球を覆いつくすほど増えた。
恐竜の大繁栄に気をよくしたゼウスは「よし、今日はイッパツいきますか!」と御言葉を発した。
神々は酒を飲みに行った。「鳥神族」という酒屋だった。
それがいけなかった。
5日目の朝、神々が御神酒とブドウ酒のちゃんぽんに挑戦する間に、恐竜が絶滅してしまった。
ようやく酔いが醒めたころ、神々は焦った。
「だから飲みすぎだって言ったじゃないですか!!」
「貴様がイッキコールなどするからだろうが!!」
「神様ゲームしようって言ったのはあんたでしょ!!」神々は天界戦争を引き起こしそうな勢いで罵りあった。
「ヴォエ―――――――ッッ!!!!」
「いやああああ!!!!」絶対神ゼウスはゲボを吐いた。ゼウスはおじいちゃんなのだ。
しかし汚い聖戦のなかでアマテラスが気づいた。
「あ!ネズミです!ネズミが生き残ってますよ!この子を軸に企画を考えましょう!」
神々は賛成するしかなかった。
「そもそも恐竜なんてゴツいしデカいしザラザラしてるしなによりあんまり攻撃的なもんだから、なんかヤだったのよね。これからはフサフサでかわいい生き物を創りましょう」
そう言ってアフロディーテは恐竜を設計するのに使った企画書を取り出し、そのなかから【攻撃的】の文字を破りとってゴミ箱に捨てた。ボツ案は丸めてゴミ箱行きだ。
すっかり酒の抜けた神々のアイデアは冴えわたり、地球は哺乳類であふれかえった。
目を離すと簡単に大絶滅を引き起こすものだから、神々は一睡もせずできるだけ多くの生き物を創ることに打ち込んだ。
しかし6日目の明朝ごろには雲行きが怪しくなっていた。
「シンプルに胴体に足がいっぱいあるだけってのは?」
「「いいねえ」」
【センジュナマコ】が生まれた。
「口が身体の3倍くらいあるとか」
「「最高!!」」
【フクロウナギ】が生まれた。
「脳ミソ透けてるとかどうですか?」
「「キタコレ!!!神!!!」」
【デメニギス】が生まれた。
「もう手とか脚とか多いほどいいんじゃ。盛っちゃえ盛っちゃえ」破壊神シヴァはとにかく手足を増やしたがった。
しかし美の神アフロディーテの意見は違った。
「ちょっと待ってみんな、センスおかしくなってるから!絶対気持ち悪いでしょ!どんどん企画通さないでよ!!こいつら全員美しくないから見えない所に追放!!」
彼らは深海魚となった。
「じゃあどんなのがいいって言うんだ?」
「これよ」
「いやいやいや!それ前創った動物の色変えただけじゃないですか!手抜きですよ!」
「うるさいうるさい!かわいいからいいの!!」
【パンダ】が生まれた。
神々は完全に徹夜テンションになってしまっているのだった。
しかし、ピンチに頼れるのはやはり絶対神ゼウスだった。
「もうワシらの体力も限界だ。ここからたくさんの生き物を創るのは効率が悪いぞ。ワシらが監督しなくても、地球をうまく運営するような、生態系を支配する究極の一種を創ることに全力を尽くすのだ」
神々は最後の余力を振り絞り、アイデアを出しあい、議論を重ねた。
しかし、究極の企画の開発はそう簡単にはいかなかった。
「逆にツルツルとかどうですか!?」
「フサフサがいいっつってんでしょ!却下!」
【毛が無い】がゴミ箱に捨てられた。
「鳴き声がめちゃめちゃいっぱいあるとか?」
「鳴き声業界は鳥でもう一杯よ。アイデアが狭い!却下!」
【鳴き声いっぱい】がゴミ箱に捨てられた。
「逆に足減らすとか。2本とか新しくないか?」
「脚が2本のイスがある?安定しないでしょ!」
【2本足】がゴミ箱に捨てられた。
「すごいたくさんで群れを成すとか」
「オレ集合体恐怖症なんだよな。てか究極の一種だぜ?群れるってかっこわるくない?」
【大群を形成】がゴミ箱に捨てられた。
「もうヤケクソだ!嘘ばっか信じちゃう生き物とか!」
「あんたバカ!?それなんの意味があんのよ!!!」
【フィクション】がゴミ箱に捨てられた。
「も――イヤ!!あんたら真面目にやる気あんの!?」
「貴様こそ文句ばっかりじゃないか!!」
「あんたたちがおかしいからでしょ!!」
「ちょ、ケンカはやめましょ」
「貴様の金切り声のせいで集中できんのだ!!」
「あ、そんな大きい声出されたらワシ…」
「あーそうですかじゃあ私は辞めさせてもらいます!!」
「まあまあまあ…」
「ああ!せいせいするわい!!」
「ワシ…気持ち悪くなっちゃう…」
「大人げないですよ!!!二人とも神なんだから!!!」
「こうなりゃ殴り合いだ!!」
「ヤバいまた上がってき」
「来いオラアアアアア!!!!!」
「ウオオオオオオオオ!!!!!」
「ヴォエ――――――――ッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「「「いやあああああああ!!!!」」」
おじいちゃんであるゼウスにストレスをかけるのは良くなかった。
アフロディーテは勢い余ってゴミ箱を倒してしまった。
ゴミ箱の中身は地球にぶちまけられた。
「もおおおおホントに最悪!!このゲボジジイ!!!」
「すまんのお…」
「こんな腐れ神どもとなんか…」
「!…ちょっと見てください!!」
「はぁ!?」
倒れたゴミ箱から、二匹の生き物が這い出てきた。
その生き物は、ツルツルで、2本足で立ち、妙な鳴き声を発していた。
神々は二匹に「アダム」と「イブ」と名をつけたのち、力尽きて長い眠りについた。
おわり